【特集】コロナ禍の日本語教育 vol.4 小西達也さん(大学教員)



新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちの日常は大きく変化しました。日本語教育も例外ではありません。これまで『日本語教師の履歴書』に登場してくださった方々に、コロナ禍の日本語教育についてうかがいます。第3回は小西達也さん。2020年10月15日にお話をうかがいました。


《今回の「日本語教師」》小西達也(こにし・たつや)さん ハイフォン大学講師。小西達也さんの『日本語教師の履歴書』インタビューはこちら


「授業の準備とかその他をもろもろ引き受ける」
―日本から海外の現場を支援する

瀬尾ま 新型コロナウィルスでお仕事にどんな影響がありましたか。

小西 3月に入ってからベトナムでもちょこちょこ感染者が出て、日本人がバスに乗車拒否されるようなこともあって、ちょっとヤバいんじゃない? みたいな感じになってきたんです。それで、飛行機がほとんど出ていない状態になりつつあったんですが、3月25日に日本に帰国することにしました。その時点ではベトナムもオンライン授業だったので日本に帰ってもあまり影響はなかったんですが、帰国して1か月ぐらい経つとベトナムの感染者数は落ち着いてきて、対面授業に戻ることになったんです。自国に戻った外国人の先生は私以外にも数人いたので、最初は外国人教員はオンラインでもいいんじゃないかっていう話になっていたんですが、最終的にはダメって言われてしまって。

瀬尾ま そうなんですか。

小西 はい。それで、結局授業はベトナム人の先生にやってもらって、私は授業の準備とかその他の諸々を引き受ける感じで分担しました。それが今回のコロナで変わったことかなと思います。

瀬尾ゆ その他の諸々というのは、どんなことですか。

小西 ハイフォン大学の日本語プログラムはまだ新しくできたばかりなので、授業のための資料や教材が全然ないんです。なので、ちょっと参考にしてもらえそうなものを作ったり、ベトナム人の先生と協働でパワーポイントを作ったり、授業案を一緒に考えたりしています。あとは、カリキュラムやシラバス作成のアイディアを出すのが今は多くなっていますね。

オンラインで現地教員たちと教材について話し合う

瀬尾ま そういうことはコロナ禍の前からされていたんですか。

小西 やっていました。授業よりもそっちのほうが多かったんですが、授業を持てなくなってさらに増えた感じです。でも、教材を作るにしても、カリキュラムやシラバスのアイディアを出すにしても、やっぱり学生を見ながらじゃないとイメージが湧いてこなくて。実際に教えながら、学生にどうなってほしいかというところから発想していくので、やっぱり教えたいなっていう気持ちはありますよね。

瀬尾ゆ 学生さん達の日本語を学ぶモチベーションはどうですか。オンラインになっても持続していますか。

小西 もともとハイフォン大学の学生って日本語を学ぶモチベーションがあまり高くなかったんですが、先生たちがオンラインの授業で工夫をして、モチベーションが上がったクラスもありました。

瀬尾ゆ どんな工夫をされていたんですか。

小西 例えば、いろんなパワーポイントを作って視覚的にわかりやすくしたり、一方的な授業にならないようにしたり、映像を見せたりですかね。あとは、ベトナム人の先生がFacebookでグループを作って、授業がない日も参考になりそうな動画を共有したりしていて、そういうことを通して学生も先生たちがこのコロナ禍でもきちんと見てくれていると感じて、モチベーションも上がったんだと思います。

「工夫次第でオンラインで楽しめちゃう」
―コロナ禍の海外の日本語教育の可能性

瀬尾ま 今後、ウィズコロナでお仕事はどう変わっていくと思われますか。

小西 日系企業を含むベトナムの外資系の企業はほとんどストップしている状態なので、今後大きく影響が出てくると思います。そうなると、学生たちも外国語を勉強するよりも他のことを勉強したほうがいいとなってしまう可能性も考えられるので、日本語を勉強する意義を明確に示していかないと学習者は減ってしまうのではないかと考えています。実際、ベトナム国内の日本語学校も、これまではどんな小さい学校でも結構すぐに受講生が集まっていたんですが、今は募集しても集まらない状況があるようです。これまでは日本語を学ぶ目的は仕事が一番大きかったんですが、今はそこがストップして先が見えなくなっているので、勉強しようとは思わないんでしょうね。

瀬尾ま その中で日本語を学ぶ意義をどのように示そうとされていますか。

小西 結局のところ、日本語を使って何かをするというところに持っていかないといけないので、大学の場合は卒業後の進路をすごく重視していかないといけないと思うんです。来年私たちの日本語プログラムから初めての卒業生が出るんですけど、ハイフォンの企業をまわって挨拶したりもできず、何も学生にしてあげられていない状態で、苦しんでいます。

瀬尾ま 逆にコロナ禍でも変わらないこと、これからも残っていくだろうということはありますか。

小西 やっぱり先生たちとの連携の必要性は、絶対変わらないだろうなと思っています。コロナが流行る前から先生たちとの会議であったり、打ち合わせであったり、それ以外の日々のやりとりは重視していたんですね。それはコロナ後も続けてやっていきたいです。ベトナム人の先生は最初あまり乗り気じゃない人もいたんですが、最近はだいぶん慣れて、連携が大事だと思う人も増えてきたので、今後も続いていくといいなと思っています。もっと言えば、私がハイフォン大学からいなくなっても、先生たちが続けてくれるようになってほしいと思っています。

瀬尾ま サステイナブルな職場環境を作っていくっていう感じですか。

小西 そうです。それが一番ですね。ハイフォンは日本人が来るような場所ではないので、日本人が今後ハイフォン大学で働くことはないんじゃないかと思います。だから、日本人の小西が来たことで何かが変わって、それをずっと続けてくれるといいなと思っています。

瀬尾ま 小西さんが日本にいながらベトナムの現場をサポートしているように、オンライン化で今後海外の日本語教師の働き方も変わる可能性がありそうですか。

小西 あると思います。公的機関の専門家も今は日本にいながら現地のサポートをしていると聞きます。現地でしなければいけないこともありますが、日本でできることは日本でやるということも考えられるのではないかと思います。そして、もしかすると、日本にいながら海外の機関で非常勤でオンライン授業をするということもあるかもしれませんし、やったほうがいいんじゃないかなと思います。もちろん逆パターンもやってほしいです。海外の人たちが日本にどんどん発信して、お互いのことを知れるようになるとおもしろいですよね。工夫次第でオンラインで楽しめちゃうこともあると思うんです。そうすると選択肢も増えて、すごくいいことだなって感じています。

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