【特集】コロナ禍の日本語教育 vol.5 絵野沢采子さん(会社員)


新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちの日常は大きく変化しました。日本語教育も例外ではありません。これまで『日本語教師の履歴書』に登場してくださった方々に、コロナ禍の日本語教育についてうかがいます。第5回は絵野沢采子さん。2020年10月15日にお話をうかがいました。


《今回の「日本語教師」》 絵野沢采子(えのさわ・あやこ)さん 外国人材の採用・育成支援をしている会社に勤務。現在、ベトナム・ハノイに駐在。絵野沢采子さんの『日本語教師の履歴書』インタビューはこちら


「現地にいられるということは非常によかった」
―ベトナムでの現在のお仕事

瀬尾ま 今年(2020年)の2月にベトナムに赴任されて、今、お仕事はどんなことをされているんですか。

絵野沢 日本語教育関係の仕事が7割で、残りの3割が現地法人の運営に関する仕事です。教育の仕事では、まず、2年ほど行っているエンジニア向けの日本語授業の運営統括をしています。これまでは対面で授業をしていたのですが、新型コロナウイルスの影響で一時はオンライン対応せざるを得なくなりました。ただ、これまでも資料を共有したり、課題を出したりするのは基本的に全部オンラインでやっていたんです。私が駐在する前は日本から遠隔で管理をする必要がありましたから。ですので、受講生も我々もオンラインにはすでに慣れていて、授業だけをZOOMに切り替えたという感じでしたね。本当にオンライン化しておいてよかったと思いました。

瀬尾ゆ それはよかったですね。

絵野沢 はい。もう一つの教育の仕事は、技能実習生の送り出し機関が運営する日本語教育機関との連携です。当社が送り出し機関を直接運営しているのではありませんが、実習生の日本語力を向上させるためにパートナーの送り出し機関と連携しており、教育現場にも赴いています。コロナの影響で実習生が日本に行けない状態が続いているので、モチベーションが下がってしまっていることも事実としてあります。そこで、私が実習生に直接会いに行って、500人の実習生全員と個別に面談をしました。たまたまコロナの感染拡大がひどくなるまえに着任できて、非常によかったなと思っています。

瀬尾ゆ 面談というのは具体的にどんなことをされたんですか。

絵野沢 ベトナムは既に市中感染がありませんが日本では感染者数も増えていますので、自分も日本に行ったらコロナにかかってしまうんじゃないかとか、会社の業績が悪化して日本に行けなくなってしまうんじゃないかという不安を抱く実習生が多かったんですね。日本人である私が日本側の代表として、みんなの不安な気持ちを受け止めた上で、日本の状況を伝え、受け入れについても私たちがきちんと守る旨を伝えました。そして、「出国が遅くなった分、日本語をたくさん勉強できる」と考え方を変えて、今は勉強に専念してほしいと話しました。

「ベトナムにいながら日本との連携が図れる」
―オンライン化による恩恵

瀬尾ま コロナ禍で特に大変なことは何ですか。

絵野沢 実は、この数年は教育のICT化を掲げてやってきていたので社内ではあまりないかもしれません。ただ、やはり、エンジニアや技能実習生の出国延期が長期化することは懸念しています。出国が遅くなれば遅くなるほど彼らも経済的に逼迫しますし、故郷に帰って待機ということが続けば、日本語力やモチベーションの問題も発生します。それに対して、われわれの立場で何をすべきか、何ができるかっていうところが非常に難しいです。

瀬尾ゆ そのなかで絵野沢さんはどんなことをされているんですか。

絵野沢 先ほどお話しした面談をしたり、当社で開発したICT教材を共有したりしています。私がベトナムに駐在しているのには、ベトナム現地と当社の連携を深めるという目的があるんですが、その初めての取り組みがこのコロナ禍でのスタートになってしまったんです。ただ、そのような連携ができている機関は決して多くはないと思いますし、日本語教育関連の駐在員がいるところとなると非常に珍しいと思いますので、その点は差別化にもつながるのではないかと考えています。

「ベトナム教師の日」には技能実習生から花束をもらった

瀬尾ま コロナ禍で逆にうまくいっていることはありますか。

絵野沢 やはりオンライン化が当たり前になって、ベトナムにいながら日本との連携がしやすくなったことですね。例えば、私は営業の場に同席することもあるのですが、日本とZOOMをつないでお客様に現地の状況を伝えられる機会が増えました。現地にいる人間の口から直接話を聞けるというのは一つの価値になっているようで、オンラインだからこその営業ができています。それに、日本でやっている日本語教育に関するシンポジウムなどもオンラインで開催されるようになったので、ベトナムからでも参加できて、海外にいながらも日本の情報をキャッチアップできるのが非常にいいですね。

瀬尾ま コロナ禍、ウィズコロナ、ポストコロナで将来的に絵野沢さんの仕事が変わっていくとしたら、どんなことだと思われますか。

絵野沢 そうですね。直接会うっていうことがすごくリッチな時間になったと思うんですが、そのリッチな時間を何に割くのか考えないといけなくなったと思います。例えば、技能実習生やエンジニアの面接は、今までは企業の方に直接現地に来ていただいて、自分の目で見て、実際に会って、採用することがほとんどでした。しかし、コロナ禍では日本からベトナムへ渡航することもできず、オンラインで面接をすることになります。対面し握手を交わした人を迎え入れるのと、実際にはまだ会ったことのない人を迎え入れるのとでは心持ちが変わってきます。

瀬尾ま  企業としてもベトナムにわざわざ行く時間とお金を考えたら、オンラインで済ませたいという気持ちも出てきそうですもんね。

絵野沢 そうなんです。でも、オンラインだからといって必ずしも悪いというわけでもないと思います。例えば、今までは渡航した限られた人だけで面接をしていたけれども、オンラインなら渡航する必要がないので現場の社員の方も参加できるようになったというような利点もあります。より多くの人に採用に関わってもらえれば、当事者意識を持つ人が増えますので、企業内の多文化化や外国人財への理解、育成への思い入れは深まるはずですし、それはすごくいいことだと思います。今後はオンラインとオフラインが共存する働き方になるのだと思いますが、国境を越えて挑戦する企業・人財をサポートさせていただいているからこそ、それぞれの良さを活かした仕事をしていきたいと考えています。

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